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    40. 40.認知症考
    41. 41.反省だけなら
    42. 43.手洗いうがい歯磨き入浴
    43. 44.インフルエンザ豆知識
    44. 45.SOS
    45. 46.おしっこのはなし
    46. 47.メタボリック症候群
院長のエッセイという名のこぼればなし
開院当時から院内で公開してきたエッセイです。
通常の診察では伝えきれない、日常の健康に関するお話、
母として感じたあれこれを紹介いたします。

04.痛いの痛いのとんでゆけ

お医者さんは大学生の時だけでなく、お医者さんになっても勉強します。
日進月歩の医学の進歩に自分を追いつかせるためでもあり、医学の進歩に寄与するためでもあり、勉強と、研究を何らかの形で一生続けていかねばなりません。私はというと、性格は体育会系ですので飛んだり走ったり、ころげたり、けつまずいたりしているのが性にあっているので、研究とか勉強というのはどちらかというと苦手分野です。
それでも医学雑誌をひもとき、時には本屋さんに足を運び、勉強して、タケノコが名医になれるように努力をしています。
ただ、「明医」としては、教科書は医学図書専門書店にのみ求めるのでなく、新聞の家庭情報欄や、テレビ番組のなかにも見出し、はては連続ものの漫画本が教科書のこともあります。(手塚治虫先生の「ブラックジャック」、高山路爛先生の「メスよ輝け」は本当に勉強になりました。) いま日々の診療の中で患者さんにお伝えする情報のベスト3は
「便秘には牛乳にきなこを入れたものを毎日飲むとよい。」
(患者さんからの情報)
「のどの痛いときにうがいをするなら煮出した紅茶がよい。」
(新聞の家庭情報欄)
「血液をさらさらにするためには、タマネギは水にさらさずに切った後、放置しておくのがよい。」
(テレビ、ためしてガッテン)です。前回藪患者が陥る失敗の情報もテレビの中に多いことを書きましたが、情報に振り回されず、上手に取捨選択して用いれば、テレビの情報も損にはなりません。
もちろん主治医の先生に出していただいた薬はきちんとのんでおくことは当然です。 予防接種をするときにはかならず、伊藤家の裏技を使います。注射部位を親指で押さえて親指麻酔をしておくと、針を刺したときにそれほど痛く感じずにすむらしいのです。痛いという感覚は本人しかわからないので、本当にそれが痛いのか、痛くないのかは結局患者さんが「痛かった」というかどうかで決まります。痛みに関しては「私は痛みを我慢するのは得意です。特に他人の痛みはね」という、名言を残した尊敬するレントゲン技師さんがいました。
しかし、本当のところ、他人の痛みを我慢するのは大変難しいことです。横で痛い、痛いと泣かれたらどうしたらいいかと悩んでしまいます。「先生、それ痛いの?」と聞かれたとき「先生は痛くないよ」と冗談で返すことがありますが、なるべく気分をリラックスさせて、痛みの恐怖から解放した上で、処置をはじめるのがよいようです。私のおきまりのセリフは、「患者さんが処置を初めて受けることよりも、先生がその処置をはじめて行う方が数十倍こわいことですから、あなたが初めてでも、わたしが初めてでないので、安心してください。」
ここでプッと笑ってもらえればこっちのものです。和やかに処置を始めることができます。反対にすごく痛いと覚悟をさせておいて、実はそうでもないと思わせる作戦もあります。いずれにしても、一度痛いと覚えてしまったことは次にも痛いと感じるように人間の神経細胞は作られているようです。(これは危険を次に回避できるように人間に備わった防御反応のひとつです。)
子供の予防接種はなるべく早くに済まされることをおすすめ致します。(痛いということと、注射を打つという行為が結びつかないほど、小さいうちが都合がよいです。)

痛み困っている女性

ここで少し専門的なお話をします。

私は生理学の研究室で、痛みについての研究をし、痛みについて勉強しました。医学の進歩に寄与する研究ができたかどうかは別にして、私自身が感動し、納得できたことがあります。それは、実験動物をもちいての実験で、痛みを伝える神経や細胞が、どのように電気的に興奮を伝達するかを調べる実験でした。皮膚に痛みを感じさせるような刺激を与えたときに、さわったり、押したりする刺激ではあらわれない、
いつまでも細胞が興奮している反応を見ることができました。(痛みは痛み刺激が加わった時だけでなく、後まで尾を引くということです。)タンスの角で足の小指を打ったとき、打ったのは一瞬なのに後まで痛みがジンジンつづくあの感覚が、この尾をひく反応ではないかと思います。
「この尾をひいた興奮」を抑えるのはその刺激部位を優しくなでてやることなのです。機械の反応計がビリビリと電気活動を伝えて動いていたのが、なでるとすっと治まって静かになるのです。「これって痛いの痛いの飛んでいけってやれば、痛みを伝える細胞の興奮が治まることを確認したんだ。」私はこの実験が大好きでした。鎮痛薬を投与するのでなく、同じ部位をなでるだけで、その直前の痛み刺激の後の興奮を押さえることができるのです。世のお母さん方に(もちろんお父さんでもいいですが)「痛い思いを子供がしているのなら、優しくなでてあげましょう。」といってあげたいと思いながら実験をしていました。よく親は「我慢しなさい」と子供の痛みを未処置で放置しようとしますが、「痛いの痛いの飛んでゆけ」は子供の気持ちをなだめるのと、神経細胞の興奮を抑えるのと両方に有効であることをお伝えし、「我慢しなさい」の前になでてやることをおすすめします。

「我慢」は美徳という考え方があります。

しょうもないことで大騒ぎするのは大人げないと思われます。しかし、健康、体に関しては、「我慢」はさほど美徳ではありません。痛みはすぐに鎮痛する方が、のちのち慢性痛を残さなくてすむのです。それに、命にかかわる重病のはじめの症状はほんの軽いものだったりするのです。我慢するより、すぐに対応することをおすすめします。
医者は患者さんがすごく我慢してもほめてくれません。重症になってから受診すると、「こんなになるまで、ほっといて!!」と叱られるのです。 大したことでないときに「このくらいでは大丈夫ですよ」プッと、笑われた方がみんなにとって幸せです。「叱られるより笑われた方がいいですよ。」明医は笑わすだけでなく、笑ったりもします。心配事は早めに対処しましょう。
ヘルペスという病気がいい例です。(帯状疱疹とか帯状ヘルペスともいわれます)初期のちょっとちりちり痛くて、皮膚に少しだけ虫さされか、かぶれかと思うちいさなブツブツができた段階で治療を開始したら、お薬を飲んで、お薬を塗るぐらいで、楽になおります(とはいっても二、三日では治りません。十日から二週間かかります。)が、はじめのころ我慢して、皮膚のブツブツがたくさんになって、かさぶたや、じくじくしたところもできて、痛みがはっきりでてきてから治療しても、直った後の神経痛を防ぐことが難しい病気です。
時間がたって(半年とか一年とか)皮膚はきれいに治っているのに、「痛み」の症状が残っているおばあさんがよくいます。神経の中に痛みの記憶が残っていて、いつまでも痛いと思わせ続けているのです。はじめのブツブツがヘルペスかどうか判断がむずかしいのですが、とにかく、しょうもないことでも、相談できるお医者さんを作っておくことが大事です。
鎮痛薬のなかにも種類があります。鎮痛の仕方もいろいろあります。その病気その病気で使い方が変わります。なるべく早く正しい治療にかかれるように、我慢せずに医者に相談しましょう。
「痛み」は体に何か悪いところがあるよという、体が発している注意信号です。原因を見つけ原因の治療とともに鎮痛を行うことが大切です。お医者さんとして「こんなになるまで」我慢した人の治療も担当しますが、そのときも叱るのでなくて、痛いの痛いの飛んでゆけって、気持ちの痛い場所をなでてあげられると、患者さんの痛みも楽になるのでしょうね。

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